清酒「分福」「男一心」醸造元・分福酒造株式会社

生原酒熟成について

30年前、私が酒造りを始めた頃、生酒は搾り後3ヶ月までの限定で販売し、通常のお酒は2~3年の冷温貯蔵後商品化し、販売していました。

25年前頃だったと思います。搾ったままの生原酒が市場に出回り始めました。いわゆる「無濾過生原酒」ブームの始まりです。弊社でもいち早く生原酒を商品化しました。香りが華やか、濃醇ではありますがフレッシュ感と希少性があり、将来性を大いに感じました。

初年度から1升ビンで500本も販売する都内の酒販店さんもあり、とても好評でした。しかし、味に関しては「まだ堅いなぁ」とも感じていました。その当時の使用酒米は滋賀県の玉栄であり、山田錦と比べると随分と硬い米でした。そこで、熟成酒のノウハウを生かし、数十本を冷蔵庫に残し、氷温貯蔵しました。

1年経ち、利き酒をし香味をチェックしました。華やかな香りはそのまま、味に丸みが出て来ました。
2年経ち、利き酒をしました。香りも柔らかくなり、味も随分と乗ってきました。
3年経ち、利き酒をしました。柔らかな含み香とちょっと枯れた味わいが出て来ました。
4年経ち、利き酒をしました。カカオフレイバー的深みのあるコクが出現しました。
5年経ち、利き酒をしました。このフレイバーと枯れた味わいは何とも言えない心地よさを感じさせます。

見事に化けてくれました。旨み追求の実験でもありましたが、想像以上に個性的な面白いお酒になりました。

それから今日まで経験値を重ね、麹造りは改良もし、酒米と酵母は同一、同じ条件下でのお酒造りを続け、同じように氷温貯蔵し、何度も利き酒をし常に香味のチェックをし続け、商品化しています。

現在、手持ちは平成23BYから令和2BYの生原酒、10年分です。10坪冷蔵庫の半分を占めています。

生原酒は、酵素がまだ活きているため、とても変化しやすいお酒です。その特徴を生かし、変化させないレベルでゆっくりと氷温熟成させるテクニックはとても難しく、常に同じ味になるとは限りません。が、またそれが面白くもあります。繰り返し、経験値を重ねたことで、最近は大体同じゾーンに収斂して来ています。年数毎に飲み比べて見るととても楽しいです。お試しください。

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